【巻観光協会 会員ファイル② お菓子のまつ屋】

三寒四温にほころぶ梅の花、春の訪れを感じる今日この頃。

今回は季節のお菓子を探しに、我がまちが誇る老舗菓子店の「まつ屋」さんへお邪魔しました。

目移りする時間も幸せなお菓子でいっぱいの店内。

心はずむ春の装いの和洋スイーツが並ぶショーケース。

社長の徳井潤之輔さんと奥様の真実子さんにお話をお伺いしました。

『まつ屋さんの創業は昭和5年とのことで、長い歴史があると伺いましたが。』

真実子さん※以下:真)ずっと創業年を昭和5年と答えていたのだけど、実は昭和6年の間違いだったの・・・

お母さんが最近アルバムを確認したら1年違ってたのが分かって。

『昭和6年創業ということは、潤之輔さんと真実子さんで3代目になるのですか』

真)そう。お菓子屋さんとしては私たちで3代目なのだけど、その昔はマドロスパイプ屋さんだったんだって。

マッカーサーとかポパイが持っている刻みタバコのあれね。

潤之輔さん※以下:潤)戦時中や戦後は砂糖が高級品だったから祖父の時代には何年かお菓子をつくれなかった時期もあったみたいで、その時は卸業みたいなこともやって、間瀬までパンを売りに行商に出ていた時代もあったみたい。

『それでは、潤之輔さんがお店を継がれた経緯を教えていただけますか』

潤)高校を卒業して五年間は古町五番町の「はり糸」さんで和菓子の修行をして、その後23歳で東京目黒駅前にあった「モンドール」さんで洋菓子の修行をしたのだけど。

あの頃はバブルの時代だったし、近くに目黒スタジオもあって、本当に多くの芸能人の方が来られるお店で、テレビ関係の特注のケーキなどをたくさん、今では考えられないスケールのものもつくらせてもらったりね。

『当時つくられたケーキで思い出深いものを教えていただけますか』

潤)いっぱい珍しいケーキをつくったし、数え切れないほどのエピソードがあるのだけど、例えば東京ドームの竣工式のケーキとかかな。

東京ドームを忠実に再現してほしいっていうご依頼で、ドームの上に野球のマスコットたちを再現して、ドーム自体はチョコレートでつくって、中を開けると観客席とか階段とか国旗掲揚塔とかがあったり。

他には、畳一畳のケーキもつくったことがあるのだけど、それは冷蔵庫に入らなかったから納品の時間を逆算して、クーラーでキンキンに冷やした部屋でつくって、あれは泣いた(笑)

真)でも若かったから良い経験だったと思うし、そういう経験がこっちに帰って来た今、それまでできなかった特注のキャラクターケーキのオーダーなどにも生きているんだよね。

『様々な経験を積まれてご実家のまつ屋さんへと戻られたのですね。お菓子屋さんのお仕事について伺っても宜しいでしょうか』

潤)今だといちご大福、桜餅とか、草餅とか、朝早いものが多くて、これから3月は朝の3時頃から仕事をする日も続いたりと、大変だけどね。

春は、ひな祭り、学校行事、お彼岸、その後には村のお祭りもあるから。村祭りでは年によっては草団子を一回で700個つくったりすることもあるよ。

潤)近年はコロナ禍で消費動向も変わって、お菓子づくりも時代に合わせて日々変わっていかないとなんだよ。

とかく「映え」とか、話題性を重視する傾向の世の中だけど、やっぱり伝統とかそういうことも大事な世界だから、その線引きも難しい。

材料の高騰も本当に大変だけど、ただ安物走りで味を壊すのだけはしたくないから。

真)そうそう。材料の質を落としたら絶対美味しくなくなるの。

これだけは間違いないから!

だからうちは絶対に材料を落としたくないの。

潤)あとお客さんに食べてもらうものだから、質の良いものを使って体に悪いものは入れない。できる限り添加物みたいなものも入れたくないよね。

『材料の高騰の中でも、質を第一にこだわられているのですね。

ちなみに私(筆者)は、まつ屋さんの和菓子のこし餡が大好きです。あずきは北海道の十勝産と伺いましたが』

潤)北海道十勝のあずきはこだわりというかあたり前だと思うよ。砂糖は「白ザラ糖」を使っているよ。

真)そう。絶対白ザラ糖!上白糖はアクが出やすかったりもするのだけど、この白ザラ糖は本当に美味しく仕上がるの。

潤)例えばお菓子って、大まかに卵と砂糖と粉でできてるのだけど、三つの「生」が大事なんだよね。

卵は「生物」、砂糖は「生かすもの」、粉は湿度とかに敏感で、呼吸をするんだよね、だから「生き物」。

こうやって三つの「生」をうまく考えてつくるものは美味しくなるんだよ。

『材料に向き合ってお菓子をつくられているのですね』

潤)たまに餡を炊くときに、あずきと会話するっていう人を聞くじゃない?あの気持ちがすごく分かるんだよね。もちろんマニュアルやレシピはあるけれど、最終的に人間の勘とかそういうのが影響すると思うんだよ。

『そして、まつ屋さんにはいつお邪魔しても数え切れないほどの種類のお菓子が並ばれていますが、新製品の開発などはどうされているのですか』

真)新しいお菓子の開発は、突然(潤之輔さんが)一人でつくりだして誕生することもあるし、従業員さんが「こんなのどう?」ってつくって提案してくれて誕生するお菓子もあったりと様々。

新しい商品は産みの苦しみももちろんあるけど、それ以上のものができることも多くて、その時はすごく嬉しいの。

でも、昔からあるお菓子を同じ製法でつくり続けることも大事にしなきゃいけないし、毎日同じ味をつくり続けることは本当に大変なことだけど、その中で今生き残っているのがこのお菓子たち。

『長い歴史のあるお店の後継者として、苦労や奮闘を教えていただけますか』

真)もちろん大変なことはいっぱいあるけど、馴染みの人が変わらずに来てくれて、ここに来ると安心するって言ってもらえたり、うちのお店に来てほっこりしてもらえれば、それが一番嬉しい。

潤)業種は違うけど、「オモウマい店」ってテレビ番組があるじゃない?もちろんテレビだからって部分も分かるのだけど、あれ見るといつも感動するの。うちも見習わなければなって。こんな一方通行だらけの店までわざわざ来てくれるんだもの。

真)そうだよ。うちもあんな風になりたいの!お客さんをお腹いっぱいにおもてなししたり、本当に勉強になるじゃない。

『最後に、お菓子屋さんをされている中で、喜びを感じる瞬間を教えていただけますか』

潤)コロナ禍プラス値上げの繰り返しで、お客さんのお財布の紐も固くなっているはずの世の中だけど、この一方通行の商店街の店に来てもらえること、それだけで本当ありがたいことだよね。

真)本当。ただ来てもらえるだけで私はありがたいの。本当にそれが嬉しい。

インスタグラムを始めてからは、遠くから道を調べて来てくれるお客さんもいたりね。

潤)今はスーパーに行けば何だってあるし、ネットでも買えるし、それなのにここまで来てもらえて、本当にありがたいよね。

インタビュー:徳井潤之輔氏/徳井真実子氏(2023年2月下旬)

(インタビュアー 石田)

【お菓子のまつ屋】

〒953-0041 新潟県新潟市西蒲区巻甲2945

電 話:0256-72-3305(9:00-18:00)

店休日:水曜日(不定休あり)

※詳しくはお店までご確認ください

ウェブサイト:https://okashi-matsuya.com/